ヘッダーイメージ 本文へジャンプ

アスパラガス
以下の論文もご覧ください
1. Sex distinction of asparagus by loop-mediated isothermal amplification and observation of seedling phenotypes. Euphytica. 177: 91-97. 2011.

アスパラガスの研究
 アスパラガスはユリ科の多年生草本で,一度植えると10年以上の長きにわたって収穫が続きます.佐藤が着任して最初に始めた仕事が,アスパラガスの圃場づくりでした.ニュージャージー州立大学で育成された新系統の特性評価などを行い,全体的な収量水準は低いものの,それでもたくさんの収穫があり,直売所のお客様にも喜ばれました.キュウリと同様,必ず毎日収穫をしなければならないため,4名の学生と交代で収穫を続けたことも良い想い出です.

アスパラガスの雌雄性
 アスパラガスは雌雄異株で,優性の雄性遺伝子の存在が知られています.雌雄では茎の太さや収量性が異なり,一般的な露地栽培,施設栽培では雄株の方が揃いが良くて自然実生の雑草化の心配がなく,伏せ込み栽培では雌株の方が太くて品質に優るようです.理論的には雌雄は1:1に分離するはずなのですが,実際には10株植えると8株が雄で2株が雌,あるいはその逆,などということもあり,生産力検定試験などの支障になってしまいます.また,生産現場でも,100%完璧ではなくても,ある程度雄と雌を区別できた方がその後の扱いが楽になります.

LAMP法による雌雄性判別
 LAMP法は我が国の企業で開発された遺伝子増幅技術です.PCR法が2領域にプライマーを設計するのに対し,LAMP法では6領域を使います.その結果,きわめて特異性の高い増幅結果が得られることと,増幅効率が高いため,電気泳動を行うことなく肉眼や蛍光検出試薬により増幅を確認できるといった特徴があります.我が国では東北大学の菅野先生がアスパラガスの性判別プライマーを発表しており,最近は使い方も洗練されてきましたが,当時は精製度の低いDNAでは誤判定の恐れがありました.そこで私たちはLAMP法のプライマーを設計しました.写真の左側4本は雄株,右側4本は雌株から抽出したDNAを使用しています.雄株のみ蛍光を発しています.

苗の形態的特徴の雌雄間差(一言で言えば茎が太くて少ないのが雌,細くて多いのが雄の可能性が高い)
 種子や幼苗で雌雄を判別できるか?百数十粒の種子を準備し,種子の重さ,発芽の早晩性,形状,草丈,分枝数,茎数...ひと夏を費やして数百項目に上るパラメータを調べ上げ,主成分分析を行ってみました.最後に,擬葉からDNAを採取して1個体ずつ性別をLAMP法で決定していきました.その結果,完璧に区別できるわけではありませんが,雄株は発生する若茎が小さいが多く,雌株はその逆になる傾向が認められました.つまり,苗を定植する時に草姿をよく観察すると,ある程度は雌雄を分けられるかも,ということになります.当然のことながら,何も考えなくても当たる確率は理論上,50パーセントですが.

印象深いこと
 この研究は,佐藤が初めて受け持った卒論生4人のうちの1名(S嬢)が担当した研究です.サボることなく毎日,黙々と調査,時には同級生も巻き込み,遅くまで何やら測定...正直,自分ならここまではしないだろうなぁと思いつつ,眺めていました.卒論の出来があまりにも良かったため,野菜茶業研究所の浦上さんのご協力で英文化し,Euphyticaという,育種関係の国際ジャーナルに投稿したところ,特に大きな注文もつかず早々に受理していただきました.Euphyticaといえば,それなりのグレードのジャーナルです.学生の卒論が,ほとんど無修正のままで載るなんていうことはまず滅多にないことだと思います.先輩教員のお話しでも「初めて受け持った学生は特別」などとよく伺いますが,この4人が頭をくっつけるように調査している光景が今でも懐かしく思い出されます.

フッターイメージ