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熱ショックの基礎
以下の論文等をご覧ください
1. Identification of terpenoids volatilized from Thymus vulgaris L. by heat treatment and their in vitro antimicrobial activity Physiological and Molecular Plant Pathology. Volume 94: 83-89. 2016.
2. Heat shock-induced resistance increases chitinase-1 gene expression and stimulates salicylic acid production in melon (Cucumis melo L.) Physiological and Molecular Plant Pathology. Volume 82: 517–55. 2013.
3. Induction of disease resistance against Botrytis cinerea by heat shock treatment in melon (Cucumis melo L.). Physiological and Molecular Plant Pathology. Volume 75: 157–162. 2011.(この論文はP.M.P.P.誌の2011年の年間Top 25 Hottest Articlesの22位にランクされています)
4. 温湯浸漬を用いた熱ショックにより誘導されるキュウリの灰色かび病抵抗性とその機作.園芸学研究.10: 429-433. 2011.(この論文は園芸学会のウェブサイトの「園芸学研究」のページからダウンロードできます.)
5. キュウリに病害抵抗性を誘導する熱ショック処理方法の改良と処理装置の試作.園芸学研究.11: 121-126. 2012.(この論文は園芸学会のウェブサイトの「園芸学研究」のページからダウンロードできます.)
6. 農業用植物の熱ショック処理装置及び熱ショック処理方法.特許第4863305号 平成23年11月18日登録
7. パルス振幅変調(PAM)クロロフィル蛍光測定法による野菜の高温ストレス耐性の検定.園芸学会雑誌.71: 101-106. 2002.(この論文は佐藤が神奈川県農業総合研究所在籍時に取りまとめたものです.園芸学会のウェブサイトの「Journal of the Japanese society for Horticultural Sacience」のページの「JournalArchive at JST」へのリンクを通してダウンロードできます.)
8. 温室密閉による高温処理が夏キュウリの生育ならびに病害虫発生に及ぼす影響.園芸学会雑誌.72: 56-63. 2003.(この論文は佐藤が神奈川県農業総合研究所在籍時に取りまとめたものです.園芸学会のウェブサイトの「Journal of the Japanese society for Horticultural Sacience」のページの「JournalArchive at JST」へのリンクを通してダウンロードできます.)
9. Heat shock induces a systemic acquired resistance (SAR)-related gene via salicylic acid accumulation in cucumber (Cucumis sativus L.). Japanese Journal of Tropical Agriculture. 47: 77-82. 2003.(この論文は佐藤が神奈川県農業総合研究所在籍時に取りまとめたものです.日本熱帯農業学会のウェブサイトの「J-Stage Online」のページの「アーカイブ 巻号一覧 」へのリンクを通してダウンロードできます.)

熱ショックとは何か?
 「熱ショック」という言葉に統一された定義は見あたりませんが,ここでは作物にとってストレスと感じられる程度の高温に対する被曝を指すことにします.私たちは当初,作物を高温環境に慣れさせる(高温馴化)ことを目的とし,キュウリを植えたハウスを閉め切って高温にする処理を行っていました.ところが,どういう訳かキュウリに病害が発生しなくなりました.いろいろな状況証拠を検討した結果,熱ショックによってキュウリの病害抵抗性が質的に変化したのではないかと推定しました.ところがハウスを閉め切るという処理は夏しかできず,また,条件を変えたり何回も繰り返すことは困難です.そこで当研究室では,まず,実験方法について検討し,作物の幼苗を温湯に浸漬することで安定的に熱ショック処理を施すことができることを明らかにしました.

作物の病害抵抗性の誘導
 私たちはキュウリやメロン,イチゴを使い,温湯浸漬法によって強い病害抵抗性を誘導することに成功しました.最適な条件は作物によって異なりますが,低い温度では長時間,高い温度では数十秒という短時間の処理で効果が期待できます.また,病原菌によって効果があるものとないものがあるようです.
 写真:上から順に無処理, 30℃, 35℃, 40℃.キュウリの幼苗を温湯に2分間浸漬し,その後灰色かび病菌を接種して2日後に撮影

なぜ抵抗性が誘導されるのか?
 私たちは植物の葉に含まれるサリチル酸という物質に着目しました.サリチル酸は植物に病害抵抗性を誘導するシグナルとして作用する他,各種ストレスに対する耐性獲得や花芽形成にも関係があるとされています.HPLCやLC-MS/MSを使い,キュウリやメロンで熱ショック処理前後の葉中サリチル酸含量を分析したところ,時間の経過とともに増減することがわかりました.また,サリチル酸によって発現が誘導される病原感染特異的タンパク質(PRタンパク質),例えば,あるペルオキシダーゼの遺伝子発現量を定量PCR法で調べたところ,熱ショック後に発現レベルの上昇が認められました.これらのことから,熱ショックは植物に全身獲得抵抗性を誘導する可能性が示唆されました.
 写真はRNAの抽出を行っているA嬢(2009)

全身獲得抵抗性とは何か?
 全身獲得抵抗性は植物が後天的に獲得する免疫の一種です.植物に病原菌が感染すると,体内にサリチル酸が集積し,これがシグナルとなって病害抵抗性が誘導されます.このため,2回目の病原菌の感染時には,1回目とは病原菌の種類や感染部位が異なっても抵抗性を示すことに特徴があります.したがって,葉が2枚あるキュウリの苗の1枚だけに温湯浸漬を行った場合,もう1枚の葉にも病害抵抗性が誘導されます.ただし熱ショックは全身獲得抵抗性だけではなく,他の免疫システムを活性化している可能性もあります.
 写真は本研究を国際園芸学会議で報告しているY嬢(リスボン,2010)

全身獲得抵抗性とは別の仕組み
 シソ科のハーブであるタイムは,もともと抗菌活性を持つ精油成分を豊富に含みますが,熱ショック処理を施すことによってさらに精油成分の放出量が増えることがわかりました.どうやら葉に蓄えてある精油が熱で揮発するだけではなく,精油の生合成も促進されるようです.このように熱ショックによる抗菌活性の上昇には様々なメカニズムが相加的または相乗的に作用している可能性が示唆されました.
 写真は本研究で卒論発表会で最優秀賞をゲットし写真攻めに遭うE嬢(2013).さらに修士課程で2年間研究を続け,成果はPMPP誌に掲載されました.

どんな使い道があるか?
 温湯浸漬法は病害抵抗性誘導の実験における熱ショック付与方法として安定・確実ですが,これを栽培中の作物に行うのは物理的に困難です.そこで,温湯を上から散布するという方法を考案し,特許を取得しました.写真ではM君(2009)がノズルを持ち上げていますが,本当はこのカバーで植物を半密閉状態にして処理するのが温度を低下させないコツです.全身獲得抵抗性が関与しているため,植物の一部分でも有効な処理ができていれば抵抗性が全身的に誘導されますので,植物体全体に均一に処理することをそれほど気にしなくても良いのです.この後,研究がどのように展開していくか,次のHot Strawberry Projectをご覧ください.

この研究について
 この研究テーマは,佐藤が前職場で手がけさせていただいたものです.それなりのサポートをしていただいていたにも関わらず途中で転出してしまったため,しばらくは放置状態でした.茨城大学に来てからキュウリで研究を再開し,幸い,特許出願,イチゴでの実用化研究へとつなげることができました.ところで,こちらで研究に従事した学生の活躍は素晴らしいものがあります.A嬢は,初めて書いた論文が年間hottest articles にランクイン,Y嬢は修士課程の2年間で他の分野も含めて3つの論文を完成させる(しかも全部受理)など,研究室のツーヘッドとして研究室を引っ張ってくれました.熱ショックが病害抵抗性を誘導するメカニズムには未だ未解明の部分が多いため,調べなければいけないことがまだたくさんあります.一方で,いろいろな形で脚光を浴びてしまうと,ライバルも増えてきます.負けないように頑張って行きたいと思います.

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